古庭園大人ライブvol.32
ヴィオラ・ダ・ガンバとリュートによる
流行り歌七変化──古くて新しいムカシの世界
2016.06.19(日)14:00〜【お知らせ, 主催イベント, 大人ライブ, 記録・レポート】
2016年 6月19日(日) 14:00開演(13:30開場)
出 演:大西万喜(ヴィオラ・ダ・ガンバ) 小出智子(リュート)
「えっ、中世美術の展覧会のフライヤー?」いえ、いえ、今回で3回目の古楽、ヴィオラ・ダ・ガンバの大西万喜さんとリュートの小寺智子さんのデュオです。なぜこんな絵が登場してくるのか、それは来てのお楽しみ。今回も、古くて新しい今に通じる古楽のオモシロさを演奏とトークで聴かせてくれます。
定 員:40名
参加費:3,000円
主 催:元・正蔵坊と古庭園を楽しみ守る会
会 場:ながらの座・座(ながらの座・座)
〒520-0035 滋賀県大津市小関町3-10(地図)
Tel&Fax: 077-522-2926 Mobile: 090-8576-7999(橋本)
申込み:お問い合わせフォームよりお申込みください。
*未就学のお子さまの参加はご遠慮ください。主 催:元・正蔵坊と古庭園を楽しみ守る会(ながらの座・座)
後 援:滋賀県、滋賀県教育委員会、大津市、大津市教育委員会、文化・経済フォーラム滋賀
会 場:ながらの座・座
申込み:下記いずれかの方法でお申込みください。
①お問い合わせフォームよりお申込みください。
メッセージ欄にご参加人数も合わせてご記入ください。
②FAX 077-522-2926 氏名/参加プログラム名/日時/連絡先/人数の記載必須
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主 催:一般社団法人文化農場(ながらの座・座)
後 援:滋賀県 滋賀県教育委員会 大津市 大津市教育委員会 文化・経済フォーラム滋賀
特別協賛:中山倉庫株式会社 滋賀石油株式会社
※フライヤー裏面の演奏曲に情報ミスがありました。訂正してお詫び申し上げます。
(誤)「甘き木陰に」→(正)「甘き思い出」
歌は世につれ、世は歌につれ。
いつの時代にもあった「流行歌」は、バロック時代の始まりとされる1600年前に、器楽作品の題材としても好んで使っていました。
録音技術がなく、伝達方法も少ない時代だからこそ、これはいいね!!と民衆に愛され各地に広まった「流行歌」のどれもが美しく、心洗われる響きがあります。
「流行歌」が器楽作品に用いられるとき、それらはディミニューションと呼ばれる装飾的変奏に姿を変え、多くの作曲家が競って出版しました。
この変奏法は、長い音価の音符を短い音符に分割する方法で、音の長さを変えることなく音符の数を増やして装飾します。
ルネサンスからバロックにかけては、通奏低音に代表されるように、即興演奏や装飾がむしろ重要視され、多くの装飾法の教本にも多種多様なディミニューションが掲載されています。
いかに他人と違うステキな装飾を施すか、そして、いかに多くの音符に分割して演奏するか・・・
作曲家のセンスも演奏家の技量も問われるこの手法、原曲の「流行歌」はわからないくらいにみじん切りにされ、もはや別の作品といっても過言ではありません。
けれど、おびただしい装飾の海の中に、ゆっくりと聴こえる「流行歌」に耳を傾けてください。
取り上げる作曲家によって、同じ「流行歌」がこんなにも表情が変わることに、現代の「カヴァー」とは一味違う七変化を楽しめるのではないかと思っております。
Program
第一部
O. ラッソ(1532~1594):スザンヌは、ある日 「4.5または6声の歌曲集第3巻」より
Orlandus Lassus : Susanne un jour ( Tiers livre des chansons a 4, 5, et 6 parties 1560, Lovain )
G. ダッラ・カーザ(?~1601):スザンヌは、ある日 「真のディミニューションの技法」 より
Giovanni dalla Casa :Susanna un giur ( Il vero modo di diminuir’ con tutte le sorti di strometi , 1584, Venezia )
G. バッサーノ(1560頃~1617):スザンヌは、ある日 「モテット、マドリガーレ、フランスのシャンソン」 より
Giovanni Bassano : Susanna un giuro ( Motetti, Madrigali et canzone francese, 1591, Venezia )
F. ロニョーニ(1570頃~1626以降):オルランドのスザンナ Ⅰ,Ⅱ 「声楽と器楽のための様々な装飾の森」 より
Francesco Rognoni Taeggio : Susana D’Orland modo di facile di passagiar
Susana D’Orland modo di passagiar ( Selva de varii passaggi , 1620, Milano )
B. de セルマ(1595頃~1638以降):低音楽器によるスザンナの変奏
「カンツォーナ、ファンタジア、コッレンテ 第1集」 より
Bartolomeo de Selma y Salaverde:Susana pasegiata basso solo( Canzoni, Fantasie et Correti, 1638, Venezia )
第二部
P. サンドラン(1490頃~1561以降):甘き思い出 「歌の宝石」 より
Pierre Sandrin : Doulce memoire ( Le Parangon des Chansons, 1538, Lyon )
D. オルティス(1510頃~1570頃):甘き思い出にもとづくレセルカーダ 第1番、第2番、
第3番「ヴィオラ・ダ・ガンバ演奏の装飾論ならびに変奏論」 より
Diego Ortiz : Recercada prima sobre Doulce Memoire
Recercada segonda sobre la Misma Cancion
Recercada tercera sobre la Misma Cancion ( EL PRIMO LIBRO, 1553, Roma )
V.ボニッツイ(1590以前~1630):甘き思い出にもとづくカンツォン 「様々な作曲家の異なる声部のための作品集」 より
Vincenzo Bonizzi : Canzon A detta Dolce memoy( Alcuni opere di diversi auttori a diverse voci , 1626, Venezia )
Special Report
「何か展覧会のフライヤー?」何度もそう尋ねられた今回の古楽コンサート。
ヴィオラ・ダ・ガンバとリュートのデュオの2回目は、じっくり噛めば味が出るプログラムで、今回も参加者を虜にしてくれました。今回のレポートは元仕事仲間の小林竜子さんです。
ヴィオラ・ダ・ガンバとリュートによる流行り歌七変化 in ZAZA
ヴィオラ・ダ・ガンバとリュートの演奏を聴くのは、『古庭園・大人ライブ Vol.7「古楽に遇う」』以来4年ぶり。今回は、チラシがなかなかの曲者で(曲者と言っては失礼なのですが)、絵画展かとおぼしきデザイン(ルネッサンス時代の画家、グエルチーノによる「スザンナと長老たち」がモチーフ)と「流行り歌七変化」というタイトルは、私にとって、期待を募らせる演出の何者でもありませんでした。
果たして、今回も期待以上のものがありました!ライブは、今風に言うところの流行歌のカバー曲聴き比べという、かなりマニアックなもの。演奏者の大西さんと小出さん、お二人の軽快な語りと、この聴き比べが、古楽器に分類されるヴィオラ・ダ・ガンバとリュートの音色の特徴を引き出す最高のものとなり、私をバロック時代へと誘ってくれたのです。
●古楽器、ヴィオラ・ダ・ガンバとリュート
16世紀にヴァイオリンが発明される以前から使われていたヴィオラ・ダ・ガンバ。
その姿は、素人目には現代のヴィオラかチェロ(素人にはその区別すらもつかない)ですが、音色は低音にして柔らかく、かつ迫力がある。今回ガット弦を使われていたので、より柔らかい響きだったのかもしれません。全盛期のヴィオラ・ダ・ガンバは、主に高貴な身分の人々の室内楽器として親しまれ、頭部の人の顔の装飾などは、所有者の財力を誇示するために施されていたようです。(余談ですが、足(イタリア語で「ガンバ」)で支えるのがヴィオラ・ダ・ガンバ、腕(イタリア語で「ブラッチョ」)で支えるのがヴィオラ・ダ・ブラッチョだそう)
一方、中世からバロック時代まで使われていたリュートは、民衆の間でも人気の高い楽器のひとつで、日本や中国の琵琶と祖先が同じだそうです。確かに姿は琵琶に似ていますね。表面のサウンドホールに当たる部分は、作家の好みやオーナーの意向でデザインは自由自在、最近では家紋のリクエストもあるようです。
さて、その音色はと言うと、広いコンサートホールには不向きな小さな音なので、家族みんなが室内で演奏を楽しむにふさわしいものだったと言えます。
演奏後に小出さんのリュートを触らせてもらいました。同じ音に2本の弦(1コース2弦(複弦))が5コースあり、音の調整をしない弦が5本、他にも3本の単弦が張られており、複弦を同時に左手で押さえて演奏する。指使いはかなり複雑ですが、小さな和音の響きは、自己主張しない奥ゆかしさを備えており、癒され、日本家屋での演奏にふさわしいように感じました。
●「ディミニューション」による即効性の高いカバー曲
声楽の伴奏用楽器として使われていたヴィオラ・ダ・ガンバとリュートですが、その歌を器楽作品としてアレンジした曲を演奏することも盛んだったようです。その際、当時イタリアで大流行したのが「ディミニューション」という装飾的編曲でした。編曲というよりカバーするという言い方のほうがイメージに近いとのことですが、私には、現代のジャズやポピュラー音楽のような即効性の高い楽曲に聴こえてきました。
「ディミニューション」という言葉も初めて聞きました。これは、ひとつの音を分割してアレンジしていく技法なので、音の長さは変わらない。つまり1小節4拍子が8拍子や16拍子や32拍子になるけど、その1小節の長さは同じで、早いタイミングで和音をつまびく演奏というわけです。
この通奏低音という演奏方法が流行り、アレンジ(音の装飾)のためのマニュアル本も出版されていたというのだから、本当によほど流行ったのでしょう。(大西さんがお持ちになった復刻本「EL PRIMO LIBRO」には編曲者DIEGO ORTIZの似顔絵とプロフィールが保証書のように描かれていました)ちなみに、楽譜がたくさん残っているのは、それだけ庶民の中で演奏することが日常的だったのではないかとのこと。
ライブでは、「スザンヌは、ある日」5種類、「甘き思い出」3種類のカバー曲を聴き比べました。聴き比べのおかげで、上記の意味が、なるほど、よくわかりました。
●物語と流行歌と絵画
インターネットも電話もない4世紀も前の時代に「流行歌」があったというのはとても意外です。(もしかすると口コミの広がりのほうが尾ひれもついてスゴイのかも!)
演奏された2曲のうちの1曲「スザンヌは、ある日」は、旧約聖書のダニエル書第13章にある、言われなき姦通罪で死刑になる寸前に助けられたスザンヌのエピソードをモチーフにした作品。中世までは庶民が聖書を読むことが許されていなかったようなので、物語は教会での説法や絵画から庶民の間に広がり、流行歌となってさらに広がっていったのでしょうか。
この「スザンヌ」のエピソードをモデルとする絵画は、ライブのチラシのグエルチーノ以外にも多くの画家が描いています。光と影の作家として有名な「光の魔術師」とも呼ばれていたレンブラントは「長老たちに脅されるスザンヌ」(1647年)として発表されています。
ZAZAライブの醍醐味は、演奏者と観客との距離が近いからこそ心に響くという音楽鑑賞に留まらず、その時代の暮らしや文化にまで想像の広がりを感じられる点にあります。この絵画もそのひとつですね。
素人の感想にお付き合いいただき、ありがとうございました!(小林竜子)
O. ラッソ(1532~1594):スザンヌは、ある日 「4.5または6声の歌曲集第3巻」より