古庭園・大人ライブ Vol.11
カルテット・チクルス(全12回)
L.v.ベートーヴェン 弦楽四重奏曲演奏会Ⅰ(全17曲)
2013.05.19(日)14:00〜/17:00〜(1日2回公演)【お知らせ, 主催イベント, 大人ライブ, 記録・レポート】 sold out!!
2013年 5月19日(日) 14:00開演(13:30開場)/ 17:00開演(16:30開場)
※1日2回公演 17:00〜の部は出演者とみなさまの交流タイムあり(1ドリンク含む)
出 演:佐藤一紀(ヴァイオリン) 谷本華子(ヴァイオリン) 中田美穂(ビオラ) 金子鈴太郎(チェロ)
定 員:40名(各回)(完売につき両公演とも申込み終了しました)
参加費:3,000円
会 場:ながらの座・座
〒520-0035 滋賀県大津市小関町3-10(地図)
Tel&Fax: 077-522-2926 Mobile: 090-8576-7999(橋本)
☞チラシ:PDFファイル [2.6 MB]
会 場:ながらの座・座
申込み:下記いずれかの方法でお申込みください。
①お問い合わせフォームよりお申込みください。
メッセージ欄にご参加人数も合わせてご記入ください。
②FAX 077-522-2926 氏名/参加プログラム名/日時/連絡先/人数の記載必須
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主 催:一般社団法人文化農場(ながらの座・座)
後 援:滋賀県 滋賀県教育委員会 大津市 大津市教育委員会 文化・経済フォーラム滋賀
特別協賛:中山倉庫株式会社 滋賀石油株式会社
6年がかりで取り組む「カルテット・チクルス」の第1回がスタートします。
その柱が弦楽四重奏曲の頂点ともいうべきL.v.ベートーヴェンの弦楽四重奏曲。
なみなみならぬ決意で“挑戦”をするのは、座・座でおなじみのメンバー。
フライヤーはスタートにあたっての気持ちを表現してもらったものです。
このプロジェクトは座・座も全力をあげて取り組みますので、みなさまの応援をよろしくお願いいたします。
Special Report
今回、佐藤千晴さんがライブレポートを書いてくださいました。
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ベートーヴェンの弦楽四重奏曲はカルテットの「神」レパートリーである。全17曲(第1〜16番と「大フーガ」)のチクルスは、登山家にとってのエベレスト、比叡山の僧侶にとっての千日回峰のようなもの。実力を磨き、機が熟するのを待って挑むべきプロジェクト......とされている。
しかし、ヴァイオリンの佐藤一紀が率いる4人組は「そんなに神格化する必要、ないんでないの?」と、これも一種の挑発的なノリで「ながらの座・座」での全曲演奏をスタートした。毎年1回、6年かけてコンプリートする計画だ。
メンバーはもう一人のヴァイオリンが谷本華子、ヴィオラ中田美穂、チェロ金子鈴太郎。京都府長岡京市が本拠の個性派弦楽合奏団「長岡京室内アンサンブル」の仲間である。
初回(5月19日)に彼らが選んだのは第1、2番と第16番。いきなり初期と晩年の両端をもってきた。1、2番はベートーヴェンが20代で書き始め、30歳になった1800年に出版した。16番は56歳で生涯を閉じた楽聖の最後の作品、出版は亡くなる半年前の1826年秋。
演奏は最初に2番、次に16番、休憩をはさんで1番。最晩年を青春でサンドイッチする趣向だ。前半は佐藤くんが第1バイオリン、後半は谷本さんが第1バイオリンを弾いた。弦楽四重奏は4人の役割が厳密に決まっているから、第1、第2が途中で交代するのは珍しい。
4人は「座・座」でリハーサルを繰り返し、宇治、神戸でプレ演奏会も重ね、気合十分で本番の19日を迎えた。
当日は「座・座」恒例の雨。残念ながら庭園でのベートーヴェンはならず、屋内での演奏となった。
誰より天を恨んだのは演奏する4人だったはずだ。今回、彼らはそろってガット弦を使った。羊の腸を使った昔ながらの弦である。いま一般的なスチール弦に比べ、温度や湿度で音程が狂いやすく、扱いが難しい。雨は大敵だ。が、バロックから古典派が専門の演奏家は愛用しても、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲で使うケースはあまりないガット弦を、なぜ、あえて使うのだろう?
「うまく弾けた時の手応えがたまらない。スチール弦って、誰でも弾けちゃうんですよ。自分じゃなくてもいいじゃんって、なんか、つまらくなった」と、チェロの金子くん。「チューニングにものすごく時間がかかりますから。さすがにベートーヴェンを弾いている時間より長くはならないと思うけど」とギャグを飛ばし、慎重に4人の楽器の音程を合わせてから演奏を始めた。
広間の中央にカルテット、囲むように約40人の聴衆。会話を漏れ聞くと、相当な室内楽好きもいる模様。
私は午後5時からの回を、手を伸ばせばヴィオラの中田さんの肩が叩けそうな位置で聴いた。こんなに演奏者に近い席は初めて。こちらもドキドキするけれど、演奏する方も緊張するだろうな。
音楽専用ホールのような豊かな残響はないし、座布団に体育座りという、はなはだ優雅ではない姿勢だったのだけれど......面白かった!
ベートーヴェンは世界最高峰の腕っこきカルテットが競い合うレパートリーだ。大阪でも今年2月にオーストリアのハーゲン弦楽四重奏団が1番と16番を弾いたし、「座・座」の4日前には東京クヮルテット(結成45年目、今回のツアーで解散する)が14番を演奏した。
それを、世界的には無名の若い音楽家が結成した、まだ名前すらないカルテットが弾く。息づかいまで伝わる小さな空間で、彼らの綱渡りのような試行錯誤まで聞こえてくる。
だから、面白い。音楽をつくる現場をリアルタイムで共有する体験だからこそ、面白い。4人の響きがぴたりと合うと、振動が畳から体にダイレクトに伝わってきた。
ベートーヴェンが弦楽四重奏曲を書いた頃を想像してみる。古典的なスタイルに飽き足らず、数々の実験が詰まった作品だから、譜面を初めて見た音楽家は戸惑いながら音を出しただろう。宮廷やサロンの小さな空間で初めて聴いた人々は「なんて不思議な音楽」と首をかしげたかもしれない。200年を経て、私たちはクラシックを聴くという行為を、「こう演奏するべき」という規範と比べて消費するだけになってはいないだろうか。
終演後、滋賀短期大学のベーカリー部の学生さんたちがベートーヴェンにちなんでつくったチョコレートケーキ(当時のウィーン風を再現してみたという)を、皮ごとたべられる葡萄を添えてサービスしてくれた。指導する金丸政義特任教授が「ベートーヴェンもハイリゲンシュタットの小径を散歩するとき、葡萄畑からひょいっとつまんで口にしたかもしれない」と発案したのだとか。
「座・座」という場で聴くベートーヴェンは、音楽ホールとはまったく別の体験だ。(佐藤千晴)
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