ながらの座・座

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大人ライブLive & Performance

座・座古庭園大人ライブ VOL.51

ヴィオラと鍵盤ハーモニカ──揺らぎ・あそび・漂う
中田美穂 宮原裕子 デュオ・コンサート

2020.11.29(日)14:00〜お知らせ, 主催イベント, 大人ライブ, 記録・レポート

ヴィオラと鍵盤ハーモニカ──揺らぎ・あそび・漂う

2020年11月29日(日) 14:00開演 *開場は開演30分前

中田美穂(ヴィオラ)宮原裕子(鍵盤ハーモニカ)
ふたつの「未完成な」楽器が、ながらの座・座の「間と庭」にいざなわれ、
「新しい響き」を放ちます。

出 演:中田美穂(ヴィオラ) 宮原裕子(鍵盤ハーモニカ)
定 員:40名
参加費:一般 3,500円 学生 2,000円(先着若干名/18歳以下)
    *未就学のお子様の参加はご遠慮ください。

会 場:ながらの座・座                               

主 催:元・正蔵坊と古庭園を楽しみ守る会(ながらの座・座)
後 援:滋賀県 滋賀県教育委員会 大津市 大津市教育委員会 文化・経済フォーラム滋賀
特別協賛:中山倉庫株式会社 滋賀石油株式会社

☞チラシ:PDFファイル [3.4 MB]

ヴィオラと鍵盤ハーモニカ──揺らぎ・あそび・漂う

Special Report

「未熟」と「未完」ゆえの創造性
  ヴィオラと鍵盤ハーモニカ 揺らぎ・あそび・漂う
音楽ジャーナリスト・佐藤千晴

 ヴィオラと鍵盤ハーモニカ。普通は出会うことない二つの楽器が、「ながらの座・座」で心に残る豊かな音楽の時間をつくった。

 どちらも滅多にコンサートの主役を務めることはない。
 ヴィオラはオーケストラや室内楽に欠かせないが、その役割は「縁の下の力持ち」。ヴァイオリンやチェロに比べて地味な楽器である。
 「ピアニカ」「メロディオン」といった商標でおなじみの鍵盤ハーモニカは、たいていの人には「小学生の頃、授業で吹いたことがある」楽器にすぎない。最近は「鍵ハモ」の愛称で大人の愛好家も増えているようだが、プロの楽器としては未知数だ。

 異色の楽器同士のデュオは、なぜ生まれたのか?
 ヴィオラの中田美穂と鍵盤ハーモニカの宮原裕子は、埼玉県で、幼稚園のママ友として出会った。子ども向けの歌や手遊びを楽しむママたちのグループで、クオリティを高めようと本格的なトレーニングを提案する中田は「浮いた存在」だったという。しかし、宮原は反応した。
 宮原は音大でオーボエを専攻した。繊細で難易度の高い木管楽器。ところが、演奏が苦痛になったという。そんな時期にYouTubeで偶然に見た松田昌の鍵ハモ演奏に惹かれ、レッスンに通い始めた。しかし「この楽器でクラシックをやるのは難しいのではないか」と松田に指摘され、方向を求めて手探りを続けていた。
 中田はヴァイオリン専攻だったが、周囲に勧められ、長岡京室内アンサンブルなどでヴィオラを弾くようになった。長岡京で知り合ったメンバーとZaza Quartetを結成、6年かけてベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を「座・座」で演奏した。個性豊かな顔ぶれがそろうカルテットでは口数も少なく、控えめな印象だったのに、こんなコンサートを企画するとは! カルテットの経験が彼女を大きく成長させ、隠れていた個性が表れたのだろう。

 木々の葉もあらかた落ちた庭から、静かにヴィオラと鍵ハモの音が響き、コンサートは始まった。1曲目は松田昌が作曲した「鶴と旅人」。元は鍵ハモ2台のための作品を、松田が鍵ハモとヴィオラ版に編曲した。プログラムノートに記された「孤独な旅人と一羽の鶴の出会いと別れ」というストーリーを手がかりに、聴き手がそれぞれに物語を紡いだことだろう。冬の気配によく似合う曲だった。
 松田は電子オルガン奏者・作曲家として活躍していたが、鍵ハモに大きな可能性を見出し、精力的な演奏と作曲で鍵ハモの領域を広げる音楽家。この日はもう1曲、鍵ハモの独奏曲「内気なピエロ」も演奏された。
 
 ヴィオラのための曲は少ない。鍵ハモのための曲はさらに少ない。それゆえ、プログラムは新作と、バロック音楽や20世紀音楽の編曲物が中心だった。

左から中田美穂、中村匡寿、宮原裕子 ハイライトは、若手作曲家中村匡寿に委嘱した新作「雲雀殺し」の初演。「雲雀殺し」とは、春に降る季節外れの雪のことだそうだ。ヴィオラと鍵ハモが切り結ぶような、スリリングな曲だった。
 中村は学生時代に鍵ハモに興味を持ち、鍵ハモを含む室内楽曲を作曲、宮原と知り合った。その縁が新曲につながり、初演の場に中村も駆けつけた。
 コンサートの中で、宮原が鍵ハモのさまざまな技法を実演してくれた。中村はこの楽器の特性を「鍵盤の合理性と息という人間の生理がダイレクトに反映される構造によって、発音方法と音を切る方法のそれぞれに3種類も明確な違いを出すことができる唯一無二の楽器」ととらえる。新作で鍵ハモの豊かな可能性を聴かせてくれた。奏者にとっても演奏しがいがあったことだろう。

 ルクレール、ヘンデルというバロック音楽も、この二つの楽器によく似合った。バロック音楽は楽器の指定がない作品も多く、奏者の即興に委ねる部分が豊かだ。中田に言わせれば「ヴァイオリンやチェロと比べ未熟なところが多い楽器」だというヴィオラと、20世紀半ばに開発され、まだ60年ほどの歴史しかない「未完成の楽器」鍵ハモとのデュオにも馴染む自由度がある。
 ほかに、林光と町田育弥の子どものためのピアノ曲を組み合わせた「優しい曲たち」、20世紀ブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスの「二重奏」、19世紀の名ヴィオラ奏者ネイが書いた「独奏ヴィオラのための24の前奏曲」から第15番。多様性に富んだ曲目構成が光った。

 オーケストラの演奏会で、観客の拍手に応えて楽譜を掲げる指揮者をよく目にする。作曲家が楽譜に記した音を何より尊重し、突き詰めて表現することが彼らの創造活動だというメッセージである。
 ヴィオラと鍵ハモには、まだそんな「突き詰めるべき楽譜」がほとんど存在しない。存在しなくていいとも思う。「未熟」と「未完」の楽器を深く愛し、制約を突破して音楽を紡ごうするアーティストの意志が、独自の世界を生み出したのだから。

中田美穂 宮原裕子 デュオ・コンサート 中田美穂 宮原裕子 デュオ・コンサート

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