ながらの座・座

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大人ライブLive & Performance

古庭園・大人ライブ VOL.45

カルテットチクルスⅪ
ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅶ(最終回)

2018.11.18(日) 14:00〜/17:30〜お知らせ, 主催イベント, 大人ライブ, 記録・レポートsold out!!

カルテットチクルスⅪ

2018年11月18日(日) 14:00開演/17:30開演(2回公演)*開場は開演30分前
昼夜公演共すべて完売しました

2013年5月19日(日) の第1回以来、6年間で全17曲を年1回のペースで取り組んできました。
今回はその最終回です。
第1回のフライヤーを見ると、6年前の意欲あふれるメンバーの気配が伝わってきます。
そして今、一つの山をともに登りきったメンバーの充実した渾身の演奏をお届けいたします。

曲 目:弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 作品59-2
    弦楽四重奏曲第15番 イ短調 作品132
出 演:ZaZa Quartet(佐藤一紀 谷本華子 中田美穂 金子鈴太郎)

会 場:ながらの座・座                               
定 員:各回40名 昼夜公演共すべて完売しました
参加費:3,500円 *未就学のお子さまの参加はご遠慮ください。

主 催:元・正蔵坊と古庭園を楽しみ守る会(ながらの座・座)
後 援:滋賀県 滋賀県教育委員会 大津市 大津市教育委員会 文化・経済フォーラム滋賀

☞チラシ:PDFファイル [1.0 MB]

カルテットチクルスⅪ

Special Report

 ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会完結に寄せて
佐藤千晴(フリージャーナリスト)

 2013年から6年半、7回の演奏会でベートーヴェンの弦楽四重奏曲全16曲を弾くチクルスが完結した。弦楽器奏者にとっては、大げさに言えば人生の節目ともなる大きなプロジェクト。だが演奏を終えたzaza quartetの4人は「楽しかった」と笑顔になり、「ここからが新しいスタート」と口をそろえた。振り返ると、神格化されがちなベートーヴェンが演奏家にも観客にも身近になったチクルスだった。

 最終回は午後5時半からの夜の部を聴いた。
 プログラムは第8番ホ短調作品59-2(ラズモフスキー第2番)と第15番イ短調作品132。 チェロの金子鈴太郎は演奏前に「2曲とも(調性が)短調。はかない、悲しい印象が深まる秋にぴったりだと思いながら弾いています」と紹介した。
 この日、昼間は日差しが暑いほどだったが、夜の部が始まる頃は日も落ちて肌寒くなった。雪見障子越しにライトアップされた庭園を見ながら音楽に耳を傾けた。
 
 後半の第15番が素晴らしかった。ベートーヴェンが死の2年前に書いた大作。チクルスを始める時に「最後はこの曲と決めていた」とヴァイオリンの佐藤一紀は話した。
 特に第3楽章が際立った。ベートーヴェンが楽譜に「病気が治った者の神に対する感謝の歌」と副題を記した楽章だ。作曲中に患った腸の大病からの回復を神に感謝する、美しいアダージョ。4人それぞれのシンプルな音が重なるうちに響きが驚くほど豊かになっていく。力んでいるわけでも、大きな音を出しているわけでもないのに静かな迫力に満ちている。思わず身を乗り出して聴き入った。

 「ながらの座・座」は人間には気持ちがいい空間だが、弦楽器には厳しい環境だ。木造家屋だから音楽専用ホールや教会のような豊かな残響はない。空調設備は非力なエアコンとストーブだけだから外の気温や湿度の変化がダイレクトに楽器に影響する。
 西洋の楽器を和室で演奏することもそうそうない。演奏者と観客は手を伸ばせば握手できそうな近さだ。
 この空間をどう生かすのか? それはzaza quartetにとって大きな挑戦だったと思う。

 彼らはもう一つ、挑戦をした。現代の奏者が普通に使う金属やナイロンの弦ではなく、ベートーヴェンの時代と同じガット弦を使ったのだ。羊の腸をより合わせたガット弦は温かみのある音色が魅力だが、気温や湿度の影響で音程が狂いやすい。金子と佐藤は扱った経験があったが、ヴァイオリンの谷本華子、ヴィオラの中田美穂はほぼゼロからのスタートだった。

 正直に書こう。2013年の第1回を聴いた時は「これからどうなるのか......」と思った。意気は高かったが、ガット弦の扱いも、4人のアンサンブル作りも課題山積みだった。
 が、最終の第7回ではガット弦にも演奏にも無理がなく、ごく自然に音楽の中に誘ってくれた。うれしかった。「人間って成長するんだなと思った」と谷本は振り返る。「楽しかった!ベートーヴェンの人間性も感じて、友達になれそうな気がしました(笑)」

 zaza quartetの看板を掲げたチクルスは積極性や責任感も育ててくれたという。「試行錯誤を重ねた6年だった。4人がアイデアをぶつけ合って演奏する難しさと素晴らしさを知りました」と佐藤。中田は「なんとか最後の音まで弾けて本当によかった」。

写真:佐藤千晴 ベートーヴェンの音楽は若き日から晩年まで変化し続けた。18世紀までの安定した形式を壊し、次々に新たな実験を繰り返し、21世紀の音楽にまで続く流れをつくった。金子は「ベートーヴェンはチクルスをやりたくなる作曲家」といい、交響曲、チェロソナタ、ピアノトリオの全曲演奏を経験している。「ベートーヴェンが生きたのはピアノという楽器が大きく発展した時代。楽器の変化が作曲の変化を促した。全曲演奏をやるとその流れを全て体験できるんです。弦楽四重奏曲のチクルスはこのシリーズが初めてですが、こんなに素晴らしい人たちとやれて幸せです」

 座・座に集まる人は必ずしもクラシックファンばかりではない。メンバーは演奏前のトークで楽器を弾いて聴きどころを解説したり、作曲家の意外な素顔を語ったり、落語でいえば「マクラ」で音楽への入り口をつくった。眉間にしわを寄せた肖像画の印象ばかりが強烈だが、意外にも冗談が好きで、コーヒーが好きで、実は投資に成功して経済的には豊かだった......笑いも起き、場がほぐれる。同じトークを大きなホールでやってもこんな親密な空気は生まれないだろう。「小さな空間」の力だ。

 チクルスを終え、中田は「(座・座代表の)橋本敏子さんをはじめどれだけ多くの人に支えられてここまできたか。今はまた新しいスタート地点に立ったんだな、という気持ち」と清々しい表情で語った。
 聴きに集まる人々も若いカルテットの完走を支えた。そして真摯な演奏を聴き続け、ベートーヴェンを知り、観客もまた成長したのではないだろうか。
 こんな相互作用こそが座・座という場の力なのだと思う。

カルテット・チクルス アーカイブ

2013.05.19 カルテット・チクルスⅠ「L.v.ベートーヴェン 弦楽四重奏曲演奏会1」
2013.11.10 カルテット・チクルスⅡ「色彩を纏った律動(リズム)」
2014.05.11 カルテット・チクルスⅢ「L.v.ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会2」
2014.11.29 カルテット・チクルスⅣ「無言の鎮魂歌(レクイエム)」
2015.05.24 カルテット・チクルスⅤ「ベートーヴェン弦楽四重奏曲 全曲演奏会3」
2015.11.15 カルテット・チクルスⅥ「L.v.ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会4」
2016.05.21 カルテット・チクルスⅦ「朝・昼・夜の四重奏」
2017.06.04 カルテット・チクルスⅧ「L.v.ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会5」
2017.11.26 カルテットチクルスⅨ「Lv.ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会6」
2018.06.03 カルテットチクルスⅩ「変容する闇の中で」
2018.11.18 カルテットチクルスⅪ「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Ⅶ(最終回)」